境界性パーソナリティ障害の原因

境界性パーソナリティ障害の原因


 境界性パーソナリティ障害の原因と考えられているものには、遺伝的要因と脳の機能的要因、環境的要因、そして社会的要因があります。境界性パーソナリティ障害は様々な要素が絡み合って発症するものです。診断には専門医での受診が必要です。

 

脳の機能的要因

 境界性パーソナリティ障害の方は脳の前頭前野の機能が低いといわれています。前頭前野が十分に機能しないと不安や感情のコントロールが難しくなります。それゆえにものごとを柔軟に見る能力や相手の気持ちを理解する能力が低くなり、それが境界性パーソナリティ障害の各症状につながるという見解もあります。
 また、境界性パーソナリティ障害の方は扁桃体が過敏であるという報告もあります。扁桃体はさまざまな状況に合わせたレベルの不安や恐怖を生み出す機能があります。これが過敏に働くと、例えば、普通の表情をした人を見ても怒っているのではないかと感じるようになったりします。これが対人関係の不安を生み出しているという見方もあります。

境界性パーソナリティ障害の原因

赤い部分が扁桃体

"Amygdala" by Images are generated by Life Science Databases(LSDB). - from Anatomography, website maintained by Life Science Databases(LSDB). Licensed under CC BY-SA 2.1 jp via ウィキメディア・コモンズ.

 

生理的要因(ホルモンの影響)

女性ホルモンの変動

 実際に専門医に来て、境界性パーソナリティ障害と診断され、治療を受けている人の男女比はおよそ1:4です。圧倒的に女性のほうが多いことがわかっています。
 しかし、境界性パーソナリティ障害と診断されていない人たちを調査したところでは、境界性パーソナリティ障害の素養となるものを持っている人に男女差はあまりありませんでした。これらのことから女性のほうが重症化しやすいのではないかとの仮説が立てられます。

 

 その大きな理由に女性ホルモンの影響があると考えられています。
 女性ホルモンとはよく聞きますが、正式にはエストロゲンという名前です。このエストロゲンは心の安定をはかるセロトニンの濃度とも関係しています。エストロゲンが欠乏すると、セロトニンも減り、うつやイライラなどの精神症状を引き起こします。
 つまり、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量が変動することによって、気分の変動も激しくなり、それが境界性パーソナリティ障害の症状を強めてしまうと考えられています。

 

 10代後半から30代前半までの女性に、境界性パーソナリティ障害の方が多いのは、この女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が変動しやすい時期だからともいわれています。そして、30代半ばを過ぎると女性ホルモンの分泌が減ってくるので、境界性パーソナリティ障害の症状も落ち着いてくるとも考えられているのです。

 

オキシトシンの分泌が悪い

 オキシトシンというホルモンの分泌が少ないと、対人の不安を感じやすいことがわかってきています。
 このオキシトシンは、幼いころによく愛情を注がれていると、大人になってからも分泌が良いということがわかっています。逆に幼いころに親から十分な愛着を受けないと、大人になってからも不安を感じやすく、対人関係も恐れがちになります。
 また、オキシトシンが不足するとこだわりが強くなる傾向があります。これが境界性パーソナリティ障害の特徴的な症状である二極思考につながることもあります。

 

遺伝的要因

 遺伝との関係について分かっていることは、境界性パーソナリティ障害に関わる性格が、親から引き継がれやすいという点です。同じ出来事を体験しても人によって受け止め方は様々です。心が深く傷つく人もいれば、それほどでもないと感じる人もいます。そういう物事の受け止め方は親子で似ていて、そういった性質は遺伝するといわれています。つまり、親が「気分が変動しやすい」「過剰に反応しやすい」といった性質であれば、それは子にも遺伝し、境界性パーソナリティの症状を引き起こす要因になるという仮説が立てられます。しかし、遺伝的要因は少ないのではと一般的には考えられています。

 

 ある研究では次のような結果報告がされています。
1.一卵性双生児7組がそれぞれ別の親に育てられた→2人とも境界性パーソナリティ障害がみられたのは0組。
2.二卵性双生児18組がそれぞれ同じ親に育てられた→2人とも境界性パーソナリティ障害がみられたのは2組。

 

 1より、一卵性双生児でも育った環境が違えば2人とも境界性パーソナリティ障害を発症することは極少ないであろうことがわかります。また2より、二卵性双生児でも同じ環境で育てば、2人とも境界性パーソナリティ障害になる可能性が少なくないことがわかります。

 

 このことにより、境界性パーソナリティ障害の原因は遺伝的要因よりも、育った環境の方が大きいのではないかと考えられています。

 

環境的要因

見捨てられ体験が将来の見捨てられ不安につながる

 幼児期に見捨てられた体験や愛情を奪われるといった体験をすると、自立するための安心感が損なわれ、それと同時に、見捨てられた不安を心に刻み込んでしまいます。
 子供の頃は母親と離れると、誰でも強い不安を感じます。兄弟が増えたことでかまってもらえなくなったり、離婚によって会えなくなってしまったり、また、愛情が不足していたり、親のうつ症状などによりかまってもらえない等、様々なケースが挙げられます。そういった体験を繰り返すことで、心の大きな傷となります。成長後、この傷が、自分なんてどうでもいい存在だという自己否定感につながり、境界性パーソナリティ障害の症状を引き起こす要因となってしまいます。
 また、幼いころに親から十分な安心感を得ないで育つと、基本的安心感と呼ばれるものが欠如します。このことで不安や苦痛を感じやすくなり、空虚感や抑うつ感を生み出すきっかけとなります。
 見捨てられ体験は、親に対して否定的な感情を覚えさせます。こういう感情もまた、境界性パーソナリティ障害の症状を助長させてしまうのです。
 見捨てられ体験は境界性パーソナリティ障害になる大きな要因です。子供は些細な冗談でも本気で受け止めてしまいます。冗談でも見捨てるぞなどと脅さないようにしましょう。

 

特に母親の影響が大きい

 境界性パーソナリティ障害になる環境的要因としては特に母親の影響が大きいといわれています。影響を与えやすい母親のタイプとして2つあげられます。
 まず、子供に愛情を示さないタイプです。母親自体はしっかりとした性格なのですが、子供にルールや責任を押し付け、良い成績や良い子としての振る舞いを求めます。その結果、子供は甘えたり弱音を吐くことができなくなり、成長後、抑えつけられた感情が爆発し、境界性パーソナリティ障害につながることがあります。
 2つめは、母親自身が不安定であるタイプです。母親がうつ病や不安障害、パーソナリティ障害を抱えていて、いつも不安を訴えていたり、ネガティブなことを言っていたりします。そういう母親を見て育った子供は、うんざりした気持ちになり、積もり積もって、成長後に境界性パーソナリティ障害の症状が現れることも少なくありません。
 いずれも過去に母親から受けた影響にとらわれていて、それがもろに境界性パーソナリティ障害の発症につながってくるのです。

 

「不認証環境」が境界性パーソナリティ障害の素地を作る

 不認証環境とは、親から常に否定的な扱いを受けるという環境です。あるがままの自分を親は認めてくれず、親のルールに従ったときだけ褒められます。子供は認めてもらおうと勉強などを頑張りますが、その結果が良くなかった時、もうだめだとあきらめてしまいます。このような環境で育つことで、基本的安心感が身につかず、常に不安を感じやすい境界性パーソナリティ障害の素地を作ってしまいます。親は無条件で子供を愛するという姿勢が必要です。

 

親が理想的すぎても原因になることがある

 「親が頑張って自分を育ててくれた」そういうふうに思うのは確かに良いことなのですが、思いすぎると極度な理想化になってしまい、それも境界性パーソナリティ障害につながってしまうことがあります。親に頭が上がらず、同時に自分は親に認めてもらえない悪い子供だと思うようになります。親を理想化する分、自分を否定するのです。そして、極度な不安や二曲思考、自傷行為などにつながってしまいます。

 

愛着障害をもつ境界性パーソナリティ障害の人も少なくない

 愛着とは乳幼児に主に母親との間で生まれる安心感です。愛着障害とはこの愛着をうまく築けず不安定になってしまった状態です。なかには、より不安定で複雑な言動をする反応性愛着障害という状態になる人もいます。いずれにせよ、境界性パーソナリティ障害の人は、この愛着に異常がある人がほとんどです。愛着障害といえる人も少なくありません。愛着に異常が現れる要因は、育児放棄や虐待、養育に不特定多数の人が関わったり、親が愛情を示さなかったことなどがあげられます。愛着に異常があったまま育ち、親に否定的な感情を引きずっていると、見捨てられ不安が強くなったり、誰かに頼ってるのにその人に対しても否定的な感情を持ったりします。

 

トラウマが基本的安心感を失うことも

 本人の安全感を破壊してしまうようなトラウマ:心的外傷体験も原因となります。いじめや虐待、離婚などによる親との別離などといった子供の頃の体験はトラウマの要因になりえます。また、成長してからも、学業や仕事の挫折、暴力被害、凄惨な事故の目撃、恋人との別れなどの経験をすることでトラウマの要因になることがあります。トラウマ体験を引きずったまま心の傷が癒えずに生活を送っていると、ふとした時に過去に受けた酷い体験を思い出し、そのたびに精神が不安定になり、憤怒衝動的行動見捨てられ不安空虚感などの境界性パーソナリティ障害の症状を生み出します。

 

社会的要因

 統計によると、アメリカでは1960年代以降、日本では1980年代以降、境界性パーソナリティ障害が急増しています。その背景には、核家族化の影響や、女性の職場進出・離婚の増加などによって、母親の負担が増した分、子どもへ愛情を注げなくなったりしたことが要因にあるとされています。

母親の役割が増えてきた

 昔は母親が家を守るというイメージでしたが、近年では母親が働きに出ることは珍しくなく、むしろ当たり前のようになりました。子供を保育所などに預けることで、十分な愛情を注げないとケースも往々にしてあります。母親の負担が増えてきた社会的要因が関係しています。

父親の関わりが重要

 近年、母親の役割が増え、父親の存在が薄くなっている傾向があります。そのため、母親が十分に子供に愛情を注げなくて、愛着に異常が現れたりします。また、適切に叱れる父親が減ってきました。そのため、情動の制御が上手くできないように育ってしまうこともあります。父母でバランスの良く、子供とふれあうことが大切です。

他のパーソナリティ障害が原因となることもある

 境界性パーソナリティ障害はパーソナリティ障害のひとつです。
 パーソナリティ障害には、自己愛性パーソナリティ障害や強迫性パーソナリティ障害など10のタイプがあります。
 =>パーソナリティ障害

 

 境界性パーソナリティ障害は、他のパーソナリティ障害と違う特別な性質があります。
 それは、他のパーソナリティ障害が急に悪くなることで、境界性パーソナリティ障害になることがあることです。
 他のパーソナリティ障害を抱えている人が、見捨てられ不安や自己否定感が強くなることで、境界性の症状が出るのです。